インド人とビジネス経験のある日本人からは、インド人の交渉力に根負けしたと言う話をよく聞く。彼らは交渉に時間をかけることをいとわない。前日に決着がついたと思われることが翌日蒸し返される。ようやく契約にこじつけても、直前になって予定が変更されることもある。
受注を争っている競合会社の安い見積書を机の上に置きっ放しにして、交渉の途中に中座する。わざとこちらに読ませて値引きの交渉をはかる、といった手の込んだ手段を使うこともある。さらに、値段の話が決着した後で、実質値引きになるような付帯条件をつけることもある。世界の最新技術情報に詳しく、それを材料にユニークな論法で値引きを迫ってくる。
また、インド人と交わす契約書は、通常かなり分厚い上に、使われている英語が難解極まりない。しかも、一言一句にいたるまで入念なネゴが行われる。単純な売却の大筋が決着した後、契約書を作るのに数日かかることもしばしばだ。
契約書が膨大になるのは、何か不都合が起きた時に訴訟を念頭においているからである。インドでは、どこの会社も訴訟を抱えているのが当たり前。その際、契約書に書かれていないことは、すべて自分に有利に解釈するのがインド流なのである。
「時は金なり」というと、日本人は「時間がもったいない」という意味に取る。しかし、悠久の歴史を持つ彼らには、そういう感性はない。むしろ、交渉に時間をかけて設けることこそが、彼らにとって「時は金なり」なのだろう。
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