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第9話 『差し出された金額欄空白の小切手』(印度編)

 交渉に交渉を重ね、商売を重ねていくと、お互いに理解し合い気心が知れてきてまったく予期せぬ局面が開ける。インド人のコミュニティーの一員、あるいは家族の一員として扱ってくれるようになる。 こうなると、何もかもがスムーズに行くようになり、値段の交渉は厳しいが、本筋の商売以外の条件が出てくるようなことはなくなる。

 筆者の経験では、アポなしで四六時中いつでも相手の自宅に入っていけるようになるし、向こうもこちらの寝室まで平気で入ってきたりする。 突然、何の前触れもなく昼飯時に出向いても、相手は大歓迎で昼をともにすることなど日常茶飯事になったりする。

 筆者が7年に及ぶ駐在を終え、日本への帰任の挨拶のために、長年の取引先であった政府企業の会長室を訪れた時のことである。私が来訪の趣を話すと、会長はさっと立って、机の引出しから小切手を一枚取り出し、「これなら旅の邪魔にならないだろうから受け取ってほしい。お前にはいろいろ世話になったから、必要なときに、必要なだけ使ってくれ」と差し出した。金額欄は、ブランクのままである。受け取った私の手が、感動でぶるぶる震えたのを、今でも覚えている。インド人と本当に良い付き合いができたと、あの時しみじみと感じた。

 会長とはもちろん、裏金一切なしの取引であった。小切手は今でも、私のアルバムの中に大事に保存している。インド人との大切な友情の証として・・・。

 インド人との交渉は、たしかにタフである。しかし、仲間に入れてもらい、本音の付き合いができるようになると、インドは魅力的な国になり、インド人とのビジネスも楽しくなる。

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