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第8話 『仲間内では口約束で多額な取引も』(印度編)

 『仲間内では口約束で多額な取引も』、こうした話をすると、インド人とビジネスをするのはなかなか厳しいな、と読者の方は思うかもしれない。しかし、どんな国にも建前と本音がある。パイナップルのトゲトゲした皮をむくと、中からジューシーな甘い果実が顔を出すのと同じだ。

 インドはご存じのとおり、カーストの社会である。インドには数百種類のカーストがあり、同一カーストあるいは伝統的なカーストの間では、契約書を交わすことなどほとんどない。すべては、口約束で動いている。ホテルのサウナなどに入ると、インド人同士が数クロール(千万)ルピー(1ルピー=2.66円)の貸し借りの話をしたりしているのを見かける。話が終わると、聞き役のインド人が首を横にかしげる。これは「ノー」と言っているのではない。首を横にかしげるのは、インドでは「イエス」のサインなのだ。サウナから上がった後、彼らは改めて契約書を取りかわすわけではない。口約束だけで、十分なのである。
 
 なぜなら、彼らが同じカーストの仲間だからだ。

 このことは、インドの長い歴史と文化に起因する。インドでは、ひとたび約束事を破るとカーストの中で断罪され、生きてゆくことができなくなる。いわば生存権そのものが剥奪されるのである。宝くじで大当たりしたデリー在住の洗濯店主が、もらった賞金をすべて自分の所属しているドビー(洗濯業者のカースト)に寄付したと言う話があるが、これもカーストの絶対性を物語るものであろう。

 こうしたインド人と商談をするときには、自分の考えていることを、忍耐強くとことん相手に理解させることが必要である。直截に、飾らずに、率直にこちらの条件を十分理解してもらう。日本風の腹芸とか「沈黙は金」といった考え方は、インドでは評価されない。

 インドではまた、韓国や中国と違って、会食の接待はよほどのことがない限り必要ではないし、長年の習慣で外で食事をするのを好まない人も少なくない。贈り物も喜んではくれるが、必要不可欠のものではない。ただひたすらに交渉をすることである。

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